ボツワナ22年版振り返りをきっかけに、ゲーム制作の要点のお話。その7。

前々回あたりに「そろそろ書き終え…」なんて言ってましたが、前回の自分の文章を改めて読み返すとまだまだ終われる気配が無いですねぇ。「前回版を真面目に見つめ直してモチーフの再解釈と適度な明瞭化」が必要と認識し、gooさんにイラストを発注する際にそのある程度の輪郭を明示しなければいけないと取り組んだ…という話の続きからでした。

「このゲーム、結局のところプレイヤー達って何やってるんでしょうね?」というのが私からの切り出しでした。「制作の根幹に関わる課題がそこにあるんです」ということを把握していただくためでした。元版には本当に色んな説明が無いのです。ボツワナという場所と5種類の動物、これが真ん中にあるのは間違いない。動物5種が描かれ0~5の値が記されたカード1枚ずつと、動物の駒が各5体。何かわからんけど自分の番が来たら配られた手札から1枚を出し、何かわからんけど中央から動物駒を1個選んでもらう。ぐるぐる手番が進んでいき、いずれかの動物のカード6枚目が来たら何か今回のゲームが終わる。動物駒は1個0~5点となる。動物駒1個あたりの点数は出された最新のカードの値へと変動する。何故か変動する。ゲームに勝つための狙いとしては、ラウンドが終わった瞬間、自分が人より多く集めていた種類の動物駒の点数が高く、(そして他の人が集めていて自分が持っていない動物駒の点数が低く)なっていると良い。そこには悩ましい駆け引きがあり、遊ぶ人たちのアプローチ次第で面白さは飛躍しうる。そういうことに面白さを見いだせる人にとってはそれが面白いゲームになる。それは大丈夫。ただこれは何をしているんだろう?

この「動物駒を取る」という行為は?gooさんと私、お互いが想定していない所から消していく、外堀から埋めるという意図で言ったのは「これ、動物駒を獲得して点数を取っていくというゲームですけど、ハンターとして狩りをしている獲物とかいうようなことでは無いわけですよね?」という話からでした。省略しましたが、プレイヤーはおそらく人間。ボツワナを訪れた人間なのだろうとは想定していました。「サファリツアーみたいなことですよね」と、gooさんも同意されたのだったと記憶しています。ボツワナのサファリツアーに訪れた旅行者がライオンやゾウを見物するために出かける。誰がそれらの動物達の魅力的な姿を見ることができるのか?あるいは撮影できるか?という感じですかね…と、色々な枝葉の話を交えつつ、gooさんとディスカッションしました。これは「どういうゲームなのか」という話と「どういうゲームと捉えようか」という話が混ざっていて、つまりそれは「どういうゲームと捉えたら違和感無くかつ魅力的なゲームのアートを描いていただけるでしょうか?」という相談でした。gooさんの中でしっくり来て描けるゲーム内容が、こちらにとっても望ましくなるように探っていったということです。

プレイヤーの目的は観光なのか、それとも研究?みたいな話も出ましたが、そこは明示することは避けつつも、まあ研究というほど堅苦しいことは無さそうですよねと。研究です、と言い切ればプレイヤーが取っている点数というのはつまり学問的な成果ですといったような説明にも持っていけはするわけですが、そちらにはっきり振ってしまうとこれから作ろうとしてる可愛げのあるどうぶつゲーム、というイメージとちょっと合ってこないなと感じました。どちらかと言えば観光ということであれば、言葉にしてしまうとあれですが点数はいわば「良いサファリツアーの思い出ができた」みたいな満足ポイントみたいなものとして配置するのが良いのかなと。そこから前回版からの変更点として今回、「カードの0~5の絵柄を変える」という案が採用されました。大きな数字のカード程動物を間近に捉えている絵柄になっています。小さい数字ほどヒキの絵になり、1は遠景のシルエット、0は足跡というのも、gooさんとの話し合いの中で決めていったものです。パッケージの構図に関しては、最終的に採用された走っていく車の姿はプレイヤーのゲームプレイ、乱舞している動物の写真は何らかの慌ただしさを伴った撮影旅行を思わせる…というような。そして出てくる動物5種を前景に持ってくると。背景に各動物の群れを何となく持ってこようというのも、各動物が複数体登場してくるゲーム内容と合致させたりゲームを展開した時のプレイ風景とリンクさせたり、という意図です。結果としては構図が一個前の弊社版キャントストップとちょっと似てしまった所もあるのですが、紆余曲折の後にgooさんからいただいたパッケージ画を一目見た時に「これは上手く行きそうかも!」と一安心したおぼえがあります。何で観光でプレイヤー同士が点数競わにゃいかんのだ、とか考え出したらキリは無いのですが(笑)。

・動物コマの種類、色、形、並び順
gooさんとの基本コンセプトの確認については、考えどころこそあったものの大きな障害も無く終えられたのですが、さてそれではすぐにでも決めねばということがありました。それが「今回採用する動物5種類」でした。採用する動物を決めなければパッケージやカードの絵に着手していただけないですから当然のことです。「あ、前回から変わってた?」というご認識の方も多いかと思いますが、今回のボツワナで採用された動物は「らいおん・ぞう・きりん・わに・すいぎゅう」。元版は「ぞう・さい・らいおん・ひょう・しまうま」でした。ひょう・しまうまout、わに・すいぎゅうin。と言ってしまえば「なるほどね」と気づく方も多いかと思います。今回は木製駒を採用することが決まっていたので、ヒョウやシマウマのような「体の模様」が特徴的な動物は基本外そう、と考えたのです。この選択の過程では「駒に模様を印刷するという可能性は?」という話題は上がりました。そういう製法自体はあるし、コンポーネントの魅力を増すという点では有効かもしれない。ただ今回についてそちらは早々に無しとして、動物の種類の検討で何とかしようということになりました。理由は何といってもコスト増と、製造不良のリスクが増大することでした。元々動物型の木駒というのは、複雑な形状をしている分シンプルなキューブやディスクに比べれば不良品が出る確率は高いです。形状がそれっぽくなるように…と凝ればそれはなおさらのことです。元々「不良品割と出るんじゃないか…」という懸念がある所に、柄を入れることによってさらにその率を高める手を加えるのは、「上手く行ったらこういう風にステキになる」という前段でもう避けた方が良い、というのが自分の判断でした。それによってゲームの魅力が飛躍的に高まる!と思うような事なら難しかったり予算がかさんだりリスキーだったりしても踏み込む余地はあるのですが、動物の変更で十分対応できるのでは…と思いましたし、今回は特にギリギリのコストで低価格商品を作っているわけで「安価な割に魅力的」という設計方針とは合わないということでした。

新たな動物選びについてgooさんにも意見を求めつつ進めましたが、自分としてのポイントは「ライオン・ゾウは絶対入れる」「ボツワナに実際は居ないと突っ込まれそうな動物は避ける」という二点からでした。ライオンとゾウを入れるというのは、それはもちろん人気からですね。加えて「シルエットから特徴的で見分けやすい」という点でも合格。同じ理由からすぐに決めたのが「キリン」でした。ライオン、ゾウ、キリン。あと2種類。4種めの「ワニ」も、選択にそう時間はかかりませんでした。形も特徴的で、生息地から絵柄も変えやすい。緑という色を使えるのも良い。…という所で「リアルなワニは緑じゃないのでは…」というのは当然出てくる話で、本来は黒やグレー、緑っぽいと言ってもせいぜいカーキ色だろ…という所ですが、伝統的にキャラクター的なワニの描かれ方ではワニは緑ですので、このボツワナのリアリティレベルも「ワニ=緑」はOKとしてください、という話もここで出ました。

問題は5番目。形状、色が他の4種と異なる物を…という中で、gooさんから出てきたのは「セーブルアンテロープ」。セーブル(黒)のアンテロープ…ということで、ボツワナに生息している動物としては非常にメジャーなのは確かながら、ライオン、ゾウ、キリン、ワニと並べると一体だけ劇画タッチとでも言いたくなるような違和感があり、ちょっと考えましょうということになりました。完全対応では無いものの「羚羊(れいよう)」という呼称は一応ある…でも「れいよう」でもまあ浮きそう。二人でああでもないこうでもないと紆余曲折考えあぐねた後、こちらから提案した「水牛」に同意をいただき、この5種が採用となりました。動物の絵柄については、どういうタッチで描いていただくか等繰り返しご検討をいただきました。ひとつ外せないチェックポイントとしてあったのは、イラストと木製駒の違和感の無い対応でした。gooさんにはイラスト執筆とあわせて木製駒の形をご提案いただき、木製駒については西山とも話し合い3Dプリンターで形状や大きさ、厚さを様々作って比較検討し、強度を確認し、そしてデザインをシンプルにする修正提案をgooさんに返し…という過程を経たものです。大きさ・厚さについては遊んでいる際の満足感や適切さを考えながら箱への収まりとアイテムとしての魅力も見る、バランスを見た形です。ごくシンプルにしてしまえば壊れにくくはなるし、小さく薄くしてしまえば箱に入れるのは容易ですが、できる範囲ではディティールを加えた方が駒を魅力的にはしやすいですし、大きく厚さもしっかりある方が遊んでいる最中の満足感も高くなるはずで、そこについては小箱2700円の中に入っているものの割にはかなり集中力を持って磨いたものになっています。特におぼえているのは、キリンの首の傾きですね。製品版に比べ、当初gooさんから出てきたデザインはかなり首が前に傾いた物になっていたのですが、これを立体化してみると、かなりぱたりぱたりと前に倒れやすかった。…Fred版のフィギュア倒れる問題の再来となりかけたわけです(笑)。そこで絶対倒れない角度に首を縦にしてしまうこと自体は難しくなかったわけですが、それでは味気ないというか、gooさんが首を前に倒した方が良いと考えて出していただいたデザインの意図を汲んでいないことになるわけで、私たちがやったのは首の角度を細かく変えたサンプルを作って「どの程度の角度なら倒れることなくキリンの首を前傾できるのか」という検討でした。結果各側面から良い形に着地したのではないかな…と思っています(いささか強度に不安点を残しましたが…)。

今回の最後に「動物の並び順」について。Fred版の際には動物がどの順に並んでいるのかはよくわからず、パッケージ裏の写真の並び順、ルールの表記順、全部バラバラで、Fredが特に気にしていなかったことが読み取れました。適当に並んでいても大きな問題が生じるような部分では無いかもしれませんが、自分達としての決まりを持ち込んでおいた方が座りが良いと言えば良い。ということで、この並び順は私が「これでお願いします」と指定した物です。最初に思ったのは「スタンダードにあいうえお順では?」と。並べてみると、きりん・すいぎゅう・ぞう・らいおん・わに。…どうもしっくり来ない。自分のしっくりこなさの理由を考えると、やはりそれは「主役っぽい動物が前の方が良いよな」というもので。ぞう、らいおん、きりんが前。わに、すいぎゅう(特に)は後ろじゃないか?と。結果渡した決めた並びが「らいおん、ぞう、きりん、わに、すいぎゅう」。これは何の並びなのかというと明確な答えがあって、「ドイツボードゲームの『赤青黄緑黒』という並び順です。まあこのらいおんどちらかというと橙ですけども、赤担当ということで良いだろうと。gooさんにも意図として「5種の動物が無理のない範囲で『赤青黄緑黒』っていう色を担当しているという把握でお願いします」と伝え、カードの色についてもそれを強調してもらいました。かつては「なつのたからもの」でもママダさんにお願いした話ですが「カードの色、動物の色、背景の色調を統一してください」という。水牛が夜景の中に、ライオンは夕焼け、ワニの居場所は緑がかっている。キリンの風景を黄色い風景に見事にしていただけたのを確認し、gooさんの確かな画力に感謝申し上げたものでした。

という所で切りましょう。ここまで書かなくてもというディティールの話までせっかく踏み込んだので、次回は得点ボードの話を。たかが得点ボードと見えて、自分の中では今回これを採用したのは非常に重要な前回版からの変更でした。ともあれまた次回です。