ドラダ日本語版、発売!その3。

いい加減に鉄は熱いうちに打て、というのを覚えて早めにドラダの話、続きを書いていきましょう。今回のドラダ日本語版は、元版のイメージを踏襲しつつアートワークを一新し、コマは元とは形状が違うものの大き目の木製をキープ、プラス片面に印刷、ボードは標準的な四つ折りではなく四分割のパズルボード、落とし穴マスに実際に穴を空け、プレイヤーカラーの識別チップを導入。価格2000円の薄型小箱。結果的にはこういう構成でした。私としては総じて良かったかな、とは今思っています。ニューゲームズオーダーのゲーム出版における基本姿勢からぼんやりとは今回のドラダ日本語版の完成形をイメージしてはいましたが、前回までに顛末をお知らせした「ドラダの権利って取れるのか?」という話と、「どういう形で新たにドラダを出せば、ドラダは再び力を得るんだろうか」という話は、別でしたね。権利を取る前の時点で「こういうアイテムにしてドラダを出す、これで必勝」という確信を得てはいなかったわけです。

書いた通りドラダ出版の糸口を見つけ、「何とかドラダ出したいんだよね、日本語版」と沢田に水を向けた時、「もちろんドラダは良いけど、めっちゃ地味じゃない?」と言った返事でした。わかる。ゲームとしては良い。商品としては地味。自分もそう遠くない把握ではありました。地味というより、正確な表現を探せば面白さが「秘められた」ゲームということ。「やってみたら想像より遥かに面白くて驚いた」となるのが元々ドイツボードゲームの他に比類無い特長だと言うのは古くからの方ならご共感いただけると思いますが、昨今の商品づくりには「秘めてるとか無駄だよ」という風潮もあります。しっかり見てもらえてなくても、誰にでも一目瞭然なように、外から全部見えてないとだめなんだよと。ガンガン魅力自分からアピールしてかないとだめだよ、YouTubeのサムネみたいになってなきゃだめなんだよと。言ったもん勝ちだよと。インスタントな商売を考えたらそういう言われ方は、一面の事実だろうなとは思うんです。我々含め皆とても余裕は無いですから、インスタントな成功はそれは求めたい。「長い目で見て…」なんて、早々言ってられないよ。商売立ち枯れちゃうよと。

でもありとあらゆる物が動画のサムネみたいになっちゃうのって、それはイヤかなあとはやっぱり思うんですよね。「古き良きもの」なんて老朽化していく、つまり朽ちていくんだよと言われたら、「そりゃ手っ取り早い稼ぎに限った話でしょう」と抗いたくなるものです。時を超えて普遍的なものはある。SNS映えしそうな見た目やテーマのゲーム選べとかばかり、ねえ。ボードゲームの面白さ自体は当然プレイヤーの心中に生じますから写真撮っても直接映るものでは無いですし、多くの人にボードゲームを売ろうとすればしていくほど、ボードゲームの面白さの真髄を(まだ)知らない人たちに向けていくことになりますから、真髄とか無くてもインスタントな稼ぎとか変わらないよ、そもそも面白くするとか早々できないんだし手間の分浪費だよと説かれたら「あなたはゲーム出さないでください」とは申し上げたい所になります。売り場にデコイをばら撒かないでいただきたいなと。一生懸命面白いの作ろうとして失敗するのと(それも極力避けたいですが)、最初から面白いの作ろうとかしてなくて小銭稼ぐ方式でしかないというのは、また違うことで。

…といった立場に立った上でドラダを出すというのは、基本的には逆張りということなんですよね。逆サイドに「そう、そういう風にして欲しいのよ」という人達も居るはずだと。常々、口には出さないけど感じてはいたと、明確にそう思っている人達と、言語化できてはいなかったけど現状に「これで良いのかなぁ?」という違和感が些かあって、逆サイドからの声が耳に入れば「あ、それだわ」という気付きに繋がる人達。インスタントな商業が置き去りにしがちな人達…総称するとそれは「ボードゲーマー」と言われるような人達なんじゃないかと思いますが(笑)。何年やってるかとか何個ゲーム持ってるかという新旧は関係なくて、そういう部類の人達はいつの世もいらっしゃる。いつの世も少数派のような気もしますが。

35年前に、最初期に日本に入ってきていたボードゲーム。カタンより前に入ってきてたドイツボードゲーム。でも今は、(日本でも、ドイツでも)ほとんど見当たらないボードゲーム。言われたら、あれ何だったんだろうね?名前聞いてるけど遊んでないわ。大昔一回遊んだけど持ってないわ。というのを、今なら2000円のお支払いでご確認いただけます、という。そもそも自分達のやってるボードゲームって元はどういう感じだったんだっけ?という遡り体験というのが、今回のドラダ出版の一側面です。

※余談ですけど、ホビーベースさんから出てる「うさぎとカメ」もこういう話の流れで言えばマストバイ、マストプレイですよという話にはなります。何か結構スルーされてる気がしてますが(残念ながらそれにあまり驚きも無いのですが)。

契約を完了しドラダの制作に取り掛かった時、「うさぎとカメ」の話題は社内で時折出ました。「歴史的名作だから商業的にも行けるっしょ」という楽観はもうダメなんだ。もう、少しの油断で空振りますと。サムネに行き掛かりを全部書くとは言わないけれど、伝え方、見え方については良く考えなければいけない。

ドラダを2024年に新たに出した時の、過去から続く、国内での商業的なポテンシャルというのは未知数ではありました。ただ規模はともあれ、確実に何らかのものがあるだろうとイメージしていました。その点で言えば、カタログスペック的にはあるはずだったうさぎとカメ以上にあるのではないかと。これは自分が10代の頃から得てきた30年ばかりのボードゲームプレイヤーとしての記憶、感覚でした。この、埋蔵されているはずのドラダのポテンシャルを適切に再起動するには?という問いが、今回のドラダを作っていく上での羅針盤と言えました。

当初私が想定していたドラダの販売価格は「2700円」でした。一つ前に出し好調に売れている「ボツワナ」と価格も並べ、箱サイズもボツワナと同じにしようと考えていました。結果的に出たドラダはさらに価格が大きく下がり箱も薄くなりましたが、この方向性は実のところ日本語版に留まらず、将来的に海外版への展開も含めて、視野に入れての小型化でした。自社製品の海外展開への実現性を考えた時、私としてはこの方向性かな…と思うからです。

ご存じの通りスマートクッキーゲームズの許諾を得てドラダを出版しているのは世界で現在ニューゲームズオーダーだけです。私達が作ったドラダを海外でも、というムーブは後々トライして良いですか?という提案を、スマートクッキーは「できるのであれば」と肯定してくれました。今回のドラダ制作が上手くいったカギとなったのは、何と言ってもスマートクッキーゲームズが私の製品作りに対して柔軟に、寛容に対応してくれたことでした。

ゲーム出版が上手くいくかを占う時、極めて重要になるのは「どれだけ出版条件を二転三転させられるか」です。状況が千変万化していく中で、ああでもないこうでもないと、出版・販売の成功に向けて何度も何度も各部を調整し組み上げなおせるか。権利者との関係で言えば、販売価格と出版部数がその最たるものでしょう。2700円で出すと言っていたものを2000円に変更しているのです。販売価格がロイヤリティの算出の元の数字ですから、一部当たりのロイヤリティは値下げしたらダイレクトに目減るのです。これを「OK」と手間なく二つ返事で返してくれる権利者は…多数派ではありません。「ロイヤリティの総額がキープされるように出版部数を増やしてくれ」といった返答でも良心的な方でしょう。最初に契約書に明記した時に合意した価格、出版部数、時限。さらには使用するアートワークの指定。海外版との仕様の統一(特定のコンポーネントを購入して採用する義務等)。生産地の指定などもあり得ます。全てが制作の縛りになり、この縛り一つで捉えかけた成功も大失敗に変わり得ます。スマートクッキーは作者本人ではなく、あくまで文化的にゲームの権利を管理するという理念があるから…というのもあるでしょうが、私が「上手くドラダを出すには、こうしたら良いんじゃないか?」と思いついて相談するたびに「OK、任せるよ」とすんなり返答してくれました。これが元々細い道を行く中でベストを尽くせた要因です。とにかく可能な限りで上手く作る、ということに集中できました。

近日こそ若干和らいではいるものの急激な円安に伴って、製造費用は増大するとともに、自然に考えると「日本で作って海外に売る」ということが活路となり得ます(世界にボードゲームが溢れに溢れかえっている今日、全くもって容易ではないのですが)。販売価格と箱の小ささは、その競争力でもあります。勿論同時に、これは国内での普及のカギとなる要素でもあります。将来的な海外展開を本気で考えて2700円から2000円への価格変更を実現できた訳ですが、実際私たちはギリギリまで1800円にしようとしてました。その過程でどんどん円安になっていき、ギリギリの所で安全を見て、ブレーキを踏んで2000円に着地したわけですが…、流石に正しかったかなと思っております。2000円でも元版と比較して十分なプライスダウンとなっていて、皆さんに「買いやすい」と喜んでいただけたという手応えは感じました。たかが200円、とはならず割合の話なので、低価格のゲーム程100円単位で成否が決定的に分かれてしまいます。

ニューゲームズオーダーとしてはできる限り様々な人達にとって「良いね」「面白いね」となるゲーム、実際に遊ばれて活用されていく意味のあるゲームをできる限りお届けしたく、そうすることで商業的な成功も求めていきたいと考えています。ドイツボードゲームというのは本来、世の中にそういう風にハマれるものだと。新旧の愛好者にとってのドラダ出版の意義は担保できたつもりでいて、では改めて新たに、「より広く」という(ドラダが本来実現していただろう)目標は?どうやって?と考えながら制作を進めていました。勿論価格面や、箱の縮小でかなう携帯性や保存という方向から現実的なアプローチはしていたのですが、私の中で「これは良いんじゃないかな?」という決め手を掴めたのは「落とし穴のマスの所、実際にボードに穴を開けられないかな?」と思い付いた時でした。ボードを見ていて、直観的に「落とし穴のマスがホントに穴だったらな~喜ばれるだろうな~」という感覚があったのです。コストが限られる中では四つ折りボードで安定的な平坦を作り出すのが(特に国内生産では)容易でなく、過去の西山の担当した他社さんのゲームを参考に「いっそパズルボードを採用しようか」と思い立ち、その後で「四つ折りボードだとできない、パズルボードだからできるプラスアルファは無いかな?」と考えていた結果のアイデアでした。簡単に言ってますがボードの製造を実際に担当する西山からしたら骨も折れリスキーでもある話で、相応苦労は掛けましたが、私としては経験的に「西山なら何とかしてくれるんじゃないかな…」という推測をしていました。結果的に…何とかなった!推測は当たっていたというわけです(笑)。私たちとしては、別の工場で作っている木製コマがボードに開けた穴にそれなりにちょうど良くはまってくれるのか!?ということにひたすら戦々恐々としていたのですが、それも結果的には良かった。土壇場で私が「西さん、ボードの穴なんだけど、あと0.5㎜だけ狭められんかな…?」とお願いしたのが最後の変更だったように思います。「はまらなくなったらどうすんだよ!終わりだぞ!」とは、お互いに何度となく言い合っていたのですが(笑)。

ということで、そろそろ締めましょう!今回書かなかった話としては、アートワークのママダユースケさんと「元版のイメージを踏襲しようか、それとも類似作の『エルドラド』イメージのより具体的な海洋冒険みたいなアートワークにしようか…」と全く別パターンのパッケージラフなども描いていただいていたことなどがありますが。ママダさんもまた柔軟で、ご自身としてはエルドラド方向の方が良いかも、と仰っていたのですが、私が「やっぱり原作方向で行きたいなと…」と言い出したのに「わかりました」と応じていただいて、実際に採用されたパッケージアートを鮮やかに出していただきました。ママダさんから採用したパッケージのラフが送られてきた時「行けるかもーーー!」と最初の手応えを感じましたね。ロゴのOの飾りについては弊社西村が思いついてアレンジしてくれました。

ということでドラダ、お陰様で初版完売!次回9月の再入荷を目指して生産を進めております。お陰様で既にバックオーダーも数多くいただけております。弊社の新たな商業的柱に育ってくれたら良いなあ、海外への出荷なんかも将来的にできたら良いなあ…と思いながら、一歩一歩やっていきたいと思います。勿論他のゲームも並行して!ということでドラダ、お楽しみいただけましたら幸いです。

ドラダ日本語版、発売!その2。

毎度ながら、前回から間が空いての更新になりました。先日発売したドラダがお陰様で予想以上のご反響をいただき、本日弊社の初版在庫が完売となりました。しばらく前からは既に再生産の方針決定や手配にあたっていました。ドラダの復刻仕事、今のところ何とかなった模様で!有難うございます。

実際発売直後の手応えから近日の完売は予感されていました。ただ早々の再生産も手放しで喜べるほど易々と行くものではなく、ボードやコマのクオリティキープや数量の確保などの部分で骨が折れております。余裕のある製品リリースでない場合ままある事ですが、最初期はどうしても生産に不安定さを残さざるを得ず(言い方はなんですが即興的な要素が出てくるところがあります)、売りながらそれを整え定めていくことになります。商品が思うように売れず初版在庫で足りてしまうようなら、とにかく一度作り終えさえすれば生産体制の課題など棚上げにできてしまいますから、増産時の安定化は売れてるからこそ生じてくる仕事。なので望ましい苦労の範囲ではあります。売れてさえいれば、大抵の場合は規模の拡大も、追加コストを費やしてのクオリティの安定も目途は立てようはあるのですよね。これを、未だ出してもない、どれだけ売れるか見込みもない段階で盤石の品質や生産体制などを求めてしまいますと、そのコスト感に雁字搦めになり、往々にしてにっちもさっちも行かなくなってしまいます。製品の原価というのは煎じ詰めると「ボードゲームを最終的に得る購入者お一人お一人が支払っている」もので、自分はその使い方を代理で決め、立て替えで支払っているだけという意識があります。お一人お一人の好みを聞いて回るわけにはいかないので、そこは最大公約数を求めていくのですが。「皆さん大体こういうことは大事にして欲しいと思ってそうかな~」とか、「こういう所は頑張っても喜ぶ人あんまり居ないよな~」とか、「こういう所で手を抜くと皆さんすごく気にするのよね…」とか。「総体として、こんな感じでどうですか?」と、各要素を見繕って組み合わせてお出ししていて、それに対する返答が売れ行きに現れてくると。「ああ、それなら買いますわ」と何回思ってもらえるのか。先ほど予想以上、と言いましたが、「予想していた範囲の天井辺り」という方が正確かもしれません。「上手く運べばこうなる、こともある」という成功のイメージは、もちろんしていたからです。そのイメージは最初から持っているもので、それが全くできてこなかったら流石にゲーム製品作りは進められませんよね(笑)。

ともあれ前回の話に戻りましょう。ドラダの権利所在を探し求めて三千里、息子さんだラベンスバ―ガーだハバだと聞き回った結果、ダメ元でルディ著作「カフェ・インターナショナル」を現行取り扱いしてるアミーゴ社に「ルディのゲームの権利管理者ご存じないですか?」と連絡を取った所まででした。

アミーゴから返答があったのは、今見返しましたが私がメールを送った40日後でした。当然ながら「やっぱり脈無しか~」と思ってからも時間が経った頃だったんですが、返ってきたメールを読んでみると相当な手間を取って状況を調べていただいたのが読み取れ、それがまず非常に有難いことでした。私が送ったメールはそう長い物では無かったですが事務的なメールというわけでもなく、「ドラダはもう一度出版されるべきゲームで、これはボードゲーム文化における問題だと考えています」と書いた所に振り返ってもらえたのかな?という気もしました。ただアミーゴからのメールは「多くの人と話しましたが、状況は相当難しいようです」という書き出しでした。調べていただいた所によればルディのゲームの権利は彼の没後三者によって管理されていて(そのうち一者は息子グイドーさん)、ドラダをキープしている可能性が最も高いのは妻のエリザベスさんだが、彼女は老人ホームに入られてる上ルディ著作の出版事業を行うことを望んでいない、あとおそらく英語話者じゃない…という。まずい。メールなら最悪ドイツ語でも何とかするけど、そもそもメールのやり取りができる感じがしないし、それ以前に「出版したいと思ってない」が致命傷じゃないかと(笑)。エリザベスさんの手元にある、お蔵入りしているだろう大部分のゲームリストの中にドラダが入っていたら、こーれはまずい。

ただポイントは、伝えてもらったもう一者の存在でした。スマートクッキーゲームズ。

smartcookiegames.de

アレックス・ランドルフ著作などの権利を管理していてルディの権利にもいくらかアクセスしている団体、と(私は初めて知りました)。ウェブサイトを確認してみると、NGOとすんごい馬が合いそう。商業<文化、という佇まいが有難い印象でした。
「まずはスマートクッキーに連絡してみたらどうですか」という有難い助言をいただき、「そうしてみます!」と返答即スマートクッキーにメール。というか他の手が無い(エリザベスさんの連絡先とか無いわけで)。

すると程無くいただいたお返事がこちら↓

「2022年以降、私たちはエリザベス夫人に代わりルディ・ホフマンの権利を管理しています。ドラダ日本語版出版のオファー、嬉しく思います」

来たわ!!

2022年以降…ということは、スマートクッキーがエリザベスさんと話を付けてくれたのは私がドラダを探し始めた後だったということになります。タイミング良かった。しかしながら、

「ただしドラダの権利状況は依然少し複雑で、現在出版権は依然『お宝はまぢか』として出版していたハバ社にあります」

あっ…、やっぱまだハバが握ってたか…。

「ただ契約期間はまだ残っているもののハバ社には今後販売の意思はなく、契約は終了となり我々の元にドラダは戻ってくる予定です」

おっ。

「ではその契約期間はいつまでか?…2024年の5月です」

来たわーーー!!

即座に「全然待てます。ハバ社からドラダの権利が返還され次第、直ちに弊社と契約お願いします!」と挙手し、ドラダの出版権がニューゲームズオーダーに確保されるに至った次第です。正直ラッキーが重なりましたね…(笑)。粘り強く行かなければ目は無いとは言え、行ったとてねえ、という所もありましたが、今回については棚に戻された瞬間のドラダを気合で掴めた恰好でした。

ということでドラダの権利探しについてざっくりとお話したのですが、権利取って終わりじゃない、というかそれでやっとスタートできるのがボードゲーム出版ということで、もう一回今回のドラダ日本語版制作について後日ブログを書こうかなと思っております。また時間置いてしまいそうですが!そんな遠くなく書けるように致します(笑)。

ドラダ日本語版、発売!その1。

3か月ぶり、と毎度ながら時間が空いての更新です。本日は表題の通りニューゲームズオーダーが新たに発売する『ドラダ』日本語版についてです。

https://www.newgamesorder.jp/games/%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%80

ドラダというゲーム…ご存じでしょうか?と問う側に回る程、私も知っていた側の人間だったわけではないのですが。

https://boardgamegeek.com/boardgame/5155/dorada

1988年にドイツのラベンスバ―ガー社から出版されたファミリーゲーム。作者はルディ・ホフマン。ルディ・ホフマンというとハンス・イム・グリュック社が黎明期に初めての商業的成功を収めたゲーム『マエストロ』の作者…というような知識が出てきますが。古豪という趣の人ですね。で、その彼の一番の代表作というと日本では『ドラダ』だということになるはずです(当然ですが世界的には『カフェ・インターナショナル』だというのが正しいかもしれません)。私も今回の出版計画の立ち上げ後にしっかり把握したのですが、ドラダ日本語版、これは史上初のことではなく「二回目の日本語版」となります。一回目は「富士商」という商社によってドイツ語版とほぼ同時期に取り扱われていたラベンズ版の日本語ローカライズ版です(ラベンス版の薄大箱パッケージの中央、アルファベットロゴの下に「ドラダ」とカタカナで記されているものが、輸入販売されていたドイツ語版と並行して存在しました)。当時私は小学生でドイツボードゲームも全く知りませんでしたから、完全に後から得た知識ですが、おそらく当時富士商がドラダを輸入販売しており、加えて(おそらく多少なりと輸入販売が好評を得たために)日本語パッケージ版も製造してもらって売ったということのはずです。その規模感はわからない…のですが、おそらく当時の玩具店や百貨店の売り場に、人生ゲームやモノポリーに並べる形で売られていたのでしょう。個数としてはだいぶ売っていても不思議ではない。というのも、私が2006年にB2Fゲームズを開店しボードゲームの中古もいくらか扱っていたころ「ドラダはありませんか?」という質問を時折受けたのです。2000年代に入っても、知名度は間違いなくありました。ただ売り場には、ほとんど影も形も残っていませんでした。今となればオンラインで探せばいくらか中古が見つかることもあるのですが、残っている知名度と現存数が全く釣り合っていない珍しいゲームだったのです。それでいて、なぜか全く再版、復刻されなかった。不思議だったんですよね。ゲーム内容的にはまさに「一般向け」と言えるようなドイツゲーム。考えどころがあって楽しめ取り回しも良い、シンプル短時間なコマ4個持ちのすごろくということで、ラベンスが絶版にしたの自体不思議だし、仮に一度絶版しても、姿かたちを変え繰り返し出てきそうな、そういう扱いを受けそうなゲームという印象でした。数年前までは、ハバ社が子供向けにリメイクした『お宝はまぢか』という関連作としては売られていたのですが。

私としても自分自身が深くかかわったことのあるゲームというわけではなく、私がモダンアートからドイツボードゲームに熱中した1990年代後半の時点で既に過去のゲームでしたから、当時は遊んだことはありませんでした。当時TRPGプレイヤーでもあったこともあり、愛読していた「電撃アドベンチャーズ」誌に連載されていたボードゲーム紹介記事『榊涼介/林正之のマルチプレイ三昧』のドラダ回を読んで「やってみたいな~。機会があれば、そのうち…」と思ったまま、実際に遊んだのはそれから10年以上も後だったはずです。ということなので、おそらく現在のドラダの知名度は今の50代以上の方々を軸にあることになるでしょう。

だから、「ドラダ出します!」と言ったら皆さんの反応はどんな感じだろう?というのは、だいぶ不安なものはありました。「すごい!でかした、快挙!」という反応もいただけるはずだけど、「ドラダ?なにそれ?」という人が多数派になるはず。2024年にドラダ。「今さら…」なんてタイミングもずっと前に通り越したゲーム(しかもそうなった理由が不明)、商業的にはどうだ?と。

…と思ったのですが、蓋を開けてみればだいぶ良い反響をいただいております。「流石ドラダ先輩、強いな~!」となりました。1995年のカタンより前の1988年ですから、トイバーでもバルバロッサとか、先ほど名前を出したカフェ・インターナショナルとか、クラマーならアンダーカバーとか、その前からずっとあるのがディプロマシーとかアクワイアとか、各段に選択肢が限られた頃の強豪ゲームだったわけで、それは結局そうなんだと。それが絶版して35年空白?詳細は不明ですが。

この謎の空白にいつかは挑戦しなければいけないよな…とは、ニューゲームズオーダーでゲームを出しながらずっと機を見ていたのです。それが具体的に動き出す形勢になった一つの要因が、先のコロナ禍の数年でした。今のNGOの土台をなすゲームの出版を何とか乗り越え、会社がだいぶ軌道に乗りかけ、上昇感をやっと感じられた矢先の2020年にコロナが来ました。巣ごもり需要で一瞬はボードゲームの売り上げは上がったりはしたものの、その後2021年からは急降下(それはそう)。そもそもこの環境でボードゲームの種類がそんなに沢山要るわけない…という実情に反比例するかのように国内外双方でタイトルは乱立して行く中、私たちとしては新製品のリリースペースを極めて緩やかにし、既存のロングセラータイトルの地道な再生産でコロナ期を乗り越えよう…という選択に進みました。この状況下でなお商業出版するゲームというのは、相当な存在意義がなければダメだと思えたからです。その、「相当な存在意義のゲームを、その分時間をかけて」という条件に合致し、今こそ取り組むべきだとなったのがドラダでした。(特に日本での)ドイツボードゲームにおける歴史的重要タイトル。ニューゲームズオーダーが普及させたいと考えながら、過去へと押しやられて行ったタイプのドイツゲームであり、商品として考えた時も、小型と超大型の二極化に振り回されている売り場の状況に楔を打てるような構成をしていました。様々な点から、コロナ禍を言わば逆用して作り出すには最適なタイトルと言えました。

ただ、当然ながらハードルは高いというのは承知の上でした。何といっても、権利の所在が判然としない。作者は故人。海外含め、現行で出版しているパブリッシャー無し。再版をしたという過去のパブリッシャーも無し。ただ自分が動き出すきっかけになった件がありました。それが実は『フラフー!』を出版した時の事でした。フラフーのパブリッシャーであるドライハーゼン社のことを調べている時に、商品リストの中にあったある作者名に目が留まったのでした。グイドー・ホフマン。この名前は?と調べたところ、勘は当たり。

https://boardgamegeek.com/boardgamedesigner/308/guido-hoffmann

(失礼ながら著作は知らなかったものの)ルディ・ホフマンの息子さんもゲームデザイナーだった。そしてドライハーゼン社からゲームを出している。…という所で「ドラダの権利所在、ドライハーゼン越しに聞けるのでは?」という発想になり、早速問い合わせたというわけです。ドライハーゼン社の担当者さんがNGOに近しいような出版方針を持っていて、そういう話も聞いてくれる、という感触をフラフー出版の過程で感じていたこともありました。これでグイドーさんが権利を管理していたら、一気に契約出版へ行けるのではないか?そうなればデカいぞ!と。

しかし回答は「私は権利を持っていないし、現在の所在も知らない。これ以上話せることは無いです」というものでした。そう簡単な話では無かった…(笑)。
ドライハーゼン社に「…誰が管理してそうとか、心当たりあれば聞いてみてもらえないですかね?」と粘ったものの有効なヒントは返ってこず。ドライハーゼン社にもグイドーさんにも何のメリットもない話なのでこれが精いっぱいという感じで、空振りに終わったのでした。

この結果は一旦は残念だったわけですが、自分のモチベーションとしてはドラダは動き出していたので、引き続き調べていこうという気持ちは固まっていました。何より、ドライハーゼン社およびグイドーさんとの会話は、出版への直接的な前進では無いものの、決して×では無かった。手が出せない大企業が権利を握って(枯らして)いるとか、逆にグイドーさんが持っているけど日本語版とかで出させる気はないといって断られたとか、そういうことではなかったからです。ルディの息子さんさえ「所在知らない」という状況なのだということが確認されたということなのです。…もしかすると現在、誰一人として「私ドラダの権利持ってます」という自意識を持っていない状況になっている可能性さえあるのではないか。

ともあれ調査を続けよう、ということで、外堀を埋めるために自分が当たろうとしたのはラベンスバ―ガー社でした。と言っても、コネ無しでラベンスバ―ガー社の正門から問い合わせて、想定するような部署に取り次いでもらえて有効な回答がもらえる可能性というのはほとんど無い、というのが私のこの仕事をしてきたなりの認識でした。今大昔のドラダの話で水を向けて返答が来ることを期待するのは無理がある。

結果としてここで役に立ったのはBoardGameGeekでした。BGG上で、ラベンスバ―ガーの関係者だとわかる、特に古株の重役だとわかる、加えて最近もアクセスがある有効なアカウントに直接メールして聞いてみるという。原始的な突撃みたいな方法ではありますが、有難いことに関係者から返答が得られました。

「私たちは権利を保持していないはずです。ドラダが私たちのもとにあったのはかなり前の事なので、権利はルディ・ホフマン(つまりルディ・ホフマンの権利の相続者)に戻っているはずです」

気まぐれに返答を返してくれた、という感じでしたし、返ってきたのは予想(期待)通りのものでした。ラベンスがキープしてるということはあり得ないだろう、と思っていましたが、その確証に近い物を得られたと。

「ルディの権利の相続者を知っていますか?」という質問には「申し訳ないがわからない」という返答でしたが、確実に外堀が埋まったと言えました。やはりドラダの権利は、おそらくはルディの親族に戻されている…グイドー以外の。可能性としては、この、ドラダを返却された親族がその事実をしっかりと把握していないという状態。あるいは、この返却された親族も亡くなっていて、そこで権利の所在がロストしたのかもしれない。

ラベンスの関係者との会話でもう少し状況を進められるかと思ったもののこれ以上の収穫はなく、ではどうするか…と考えたうえ自分が次にコンタクトしたのはハバ社の関係者でした(またもBGG上)。前述の通り『お宝はまぢか』を出していたため(2010年代半ば頃に生産終了していたようではあるものの)最も近年までドラダに関連する権利にアクセスしていたことになるためです。すぐに返答をくれた関係者が居たもののこちらはアメリカ支社の広報の人で、「担当部署に確認してみるよ」と親切に動いてくれはしたものの、ハバの社内でこれ以上の進展が無かった模様で「ごめん、ドイツの方からの返事がきわめて遅いんだ」との返答で終了しました。

ハバから最新の履歴が辿れないとすると、難しいな…という所で立ち往生。ちなみにワンアクションのレスポンスを得るのに1か月、なんなら数か月の時間でも余裕でかかるので、動き出したのは2020年でしたが、既に1年経過して2021年になっていました(笑)。通常業務の裏で調査を継続していたわけですが、こういう時間感覚の中でのことです。この時点で、誰も権利の管理をしていない著作物、いわゆる「孤児著作物」としての手続きをして、出版に進みつつ権利者を探すという方法もあるのかねえ、といった相談を沢田ともしていました。ドイツの新聞に広告を掲載して…といった手続きについて話していたのですが、その前にもう一つ当たる価値がある会社があるな?ということに思い当たりました。アミーゴ社です。1989年のドイツ年間ゲーム大賞作「カフェ・インターナショナル」の流通を現役で続けている(ルディの没後も)。アミーゴの関係者の中には、ルディ著作の最新の権利の管理状況について知っている人物が居るのでは?

とは言え、アミーゴ社の規模感や正門窓口から返答を得る難しさはラベンスバ―ガーと大差無し…という感覚はあり、望みは薄く感じました。BGG上でも有効な関係者は発見できず。アミーゴ社からすれば答える筋合いはほぼ無いので、ダメ元で代表のアドレスに、それでも今回の経緯などを詳細に書いたメールを送ってみました。…この時点でまた年が明けて2023年になっていた。

「アミーゴからは、そもそもメールが返ってくることは無いんじゃないかな…」と思っていて、これで反応無しなら孤児著作物の手続き研究へ。と思っていたところ、予想外にもそう時間もかけず、アミーゴ社からの返信を受け取りました。「え?来た!?」と、ホント驚きましたね。しかも、アミーゴ社のボードゲーム出版の中核的な人物からでした。その方からのまさかの有効な情報が記されたメールが返ってきて、一気に状況が動いたのでした。

…という所で、長いので一旦切らせていただきましょう。絶版した過去作品の出版というのは最新作のローカライズとはかなり趣の異なることがあるのですが、これだけ時間をかけることになったのは私としても初めての事でした。真面目に3年4年の時間、コロナが始まって終わる時間が経っていたんだなと、振り返ると思います。実際の製品を作り始める前の、その権利を取る段階なのですが…、今となっては、発売に漕ぎつけられてよかったですね。続きはまた書くとして、ドラダ日本語版、皆様是非よろしくお願いします。ルールも時間も短く遊び易いですし、2人でも面白いのも長所です。箱も小さく、価格も(少なくとも今は)2000円。我ながらですがだいぶ、だいぶ頑張れたんでは無いかなと思ってますので、良かったらお手に取って、遊んでみていただければ幸いです。

吉祥寺ZINEフェスで吉田がミニチュアゲーム関連のZINEを出します。

雨天で順延になりまして3/24開催になりました吉祥寺パルコ屋上でのZINEフェスでこの度、「B2FGames吉田のミニチュアゲーム雑想、地下サブ思い出編」というのを20部ほど販売します。価格は500円の予定です。

私どもとしては2回目の参加になるZINEフェスですが、沢田も自分のBlogの本を先日まとめていたし、西山も色々作ってるしということで私も自分で言ってしまいますが重い腰を上げてちょっと書き始めてみた次第です。いや~しんどいですね。書き始めてしまうと各トピックがどんどん広がっていってしまって書いても書いても分量が収まらなくなり。当日来ちゃうよということでどうにかこうにか一回区切った感じです。ウォーハンマーファンタジーバトル、40k、ロード・オブ・ザ・リングなんかについて思ってたことには一応ちょっと触れましたが、他の人でも話せる内容よりはということで自分自身の思い出振り返り、イエサブに就職した話とか地下サブに配属になる経緯とか、自分が言い出さなければ誰も知らないような話が中心になるように心がけました。ミニチュアゲームのことより、割と当時のイエサブの雰囲気が伝わってくるような話が書いてある気もします。話題の選択について検討しきれなかったですが書いていくなり自分から出てきたのが今回はこれなのでご興味あれば読んでみてくださいという感じ。モードハイムのムジョンキャンペーンのこととかは全然触れてないですが、あれはあれ単独でトピックが立ってしまうようなボリュームになり収拾がつかないなと思って止めておきました。今回の内容からある程度伝わるだろう私のミニチュアゲームへのスタンス(販売者としてのスタンスとプレイヤーとしてのスタンスの二つがあるのですが)から今回書いてないことについてもある程度推し量っていただけるかなと思います。

ZINEとは言えとりあえず文字情報として残すことにとりかかって見ましたが、こりゃつくづく大変。殴り書きレベルでも労力はしっかり持っていかれ、他の仕事をまあまあ中断するような感じになってしまいました。よりちゃんと文章にして正確詳細にまとめていくとなったら、は~こりゃこりゃ。しかし自分として長年の宿題だなと思っていることもあるので、今回のZINEフェスが良いきっかけかなと思います。…続きがあるとしてもいつ書くかはわかんないですが。ミニチュアゲーマーの皆さんでも、地下サブリアルタイム世代の方、その後からの方、最近の方、人によってこのZINEの見え方は違うかもしれませんが、そこここに面白ポイントはある気もしますので、気が向いたら読んでみてください。とりあえず20冊西さんが刷ってくれたのでそれを販売しまーす。