ボツワナ22年版振り返りをきっかけに、ゲーム制作の要点のお話。その8。

この12月に入って、今回の22年版ボツワナの初期生産分が完売、流通在庫のみとなりました。まずはめでたく、それ以上に一安心という所です。冠している通り22年版…というのは2022年中にリリースしなければいけない契約時限のために「ちゃんと(ギリギリだけど)出しましたよ」ということを強調する為の呼称だったわけですが、初回生産分の完売に要したのはほぼ1年。これをどう評価するかは難しい所で、予想外に飛ぶように売れて1か月2か月で完売、即再生産!となれば最高なのですが、現実的にそうなるアイテムはそうそう無く、一方初回生産分が売り切れないアイテムも実際は数多い…と考えると、1年での完売は十分以上に良いとみなすべきなのでしょう。今回のボツワナについては売れ行き衰えつつも何とか無くなった…という感じではなく、無くなりかけの最近でもかなりまとまった数を複数の業者さんからご注文いただけていたことが嬉しい点かなと。こういう「良いゲームが着実に売れてる」という感触が近年なかなか得にくかっただけに、(もちろんボツワナというゲームの元々の根強さは前提としても)情勢的に一時の大飽和、大混乱を経てある程度着実なゲーム出版商業を行えるようにまたなりつつあるのかもしれない…という兆しと捉えたい今回の完売です。次の再生産分がその予感の答えを教えてくれるということになりますけれども。

さて今回は、前回最後に書いた通り今回版で新規導入の得点ボード周りの話をするつもりなのですが、その前に少しだけ動物コマについて書き残していたことがあったこぼれ話。「動物コマは立たせるか、寝かせるか?」です。

・動物コマは立たせるか、寝かせるか?
さて今回の版のボツワナを遊んでいる皆様は、動物コマをテーブルに立てて配置しているでしょうか?それとも寝かせているでしょうか?おそらくどちらの方もいらっしゃるかと思います。一面的には立たせることで「動物の立ち姿が表現されて良いよね」と感じる方にとってより満足できる表示になると思いますが、他方で「テーブルに寝かせて置いた方が表示の仕方としては見易くて良い」と考える方もいらっしゃるでしょう。具体的な話をすると、私は立てて置きたい派です。立てることで誰がどの動物を何個取ってるか分かりにくくなるだろう、ゲーム性が下がる、と言ったら流石に大げさで、立てて置いても十分把握はできるようになっていますから、情感という点で立てて遊んだほうが良いかなと思ってます。一方沢田は「寝かせるでしょう」と言っていました。寝かせた方が見易いからゲームとして優れた表示だ。そういう人もいる。答えとしてはどちらの置き方も良くて、あえて言えばその場の人たちの気が済むようにその回のゲームで立てるか寝かせるかで統一してもらえたら良いかな、くらいに思っています。各自こだわらず取った動物コマも各自の自由とするならそれもありです。言わずもがなですが、自分の獲得状況が他の人に少しでも見えづらくなるようにコマを置く、みたいな風に頑張る分野ではないです、というくらいです。各所にある動物コマの数は明示。手に握って隠したりしない。それが守られていればOK。

さてそれを踏まえた上で動物コマの形状について何を持ち込んだかと言えば「立たせて良し、寝かせて良し」の形状、厚みにしたということです。動物コマを薄くすればコストダウンにもなりますがバタバタ倒れるようにもなり、自然と寝かせて使うものですよということになるでしょう。ただ立たせたいよね、それはわかっている。だからちゃんと立つことにはこだわりました。駒の厚みが何ミリが良いんだろう、ということを考えるにあたって考慮していたことです。こぼれ話にしては言葉にすると長いですが(笑)。

・ボードの新規導入、形状、製法、表示
さて予告していた今回の本題。前回版との違いの中で、最もゲームプレイにダイレクトな影響を与えるのではないかと考えたのが、前回入っていなかった得点ボードの導入です。ご存知の方であればピンとくるかもしれませんが、NGOはかつて「フェレータ」でも同じ内容物変更を行っています。大げさなようなことを言いますが、この得点ボード、そして各自2個のプレイヤーコマが入っていることで、ボツワナは実際、より面白いということになるのではないか、という話です。ボツワナを遊んだことがあって察しの良い方に対しては、もう話終わりね、ということで良いかもしれませんが、そういう方が全体の何割くらいいらっしゃるのかがもう分かっていませんのでご説明してまいります。ボツワナは複数ラウンドを行うゲームで、点が入るのは各ラウンドの終了時の得点計算だけです。ラウンドが終わる度、得点ボード上の各自の駒を動かして点を記録します。元版のボツワナでは「筆記用具でも用意して誰かが全員の点を書き留めておいてください」といった感じでした。こういうゲームは少なからずあって、ボードゲームで各自が取った点というのはまず常に公開されているか隠して置くものか、というところにデザイン上の意図があり、公開の場合も中央のボード上の得点トラックに表示されているか、各自の手元に得点マーカーといったような形で置かれているのか、前述のようにメモ用紙にだれかが書いて管理してるみたいなことなのか。この「得点(形勢)に関する情報の扱い方」は、ゲームプレイの質を大きく変動させ得るもののはずです…よねと。ここについて、前回版のボツワナは明らかにテキトーだった。誰かが得点記録担当になってメモする形式というのは、厳密に言えば得点は公開なのです。ただこの得点状況についてラウンド終了の度に確実に気にするのは、メモしている一人だけです。多分そのメモ用紙はその記録係の手元にあるでしょう。この場合、他の人が得点経過についてどういう距離感で振舞うかは個々に委ねられ(てしまい)ます。ある程度ボードゲームの経験がある人であれば、各自の得点、点差、形勢を常に把握しておくのがこのゲームには必須だということはわかると思います。自分たちが出しているカード、取っているコマが、(自分は勿論として)他の誰に嬉しく誰に厳しいアクションなのか?自分がやっていることはトップに追いつき追い越すアクションとして有効か?ということを考える上で、得点状況はその起点なのです。要素が少ないだけに、これを把握せずに何となく行っていくことにはほぼメリットがありません。また、「自分は把握している」というだけでは片手落ちで、「得点状況は全員把握している」という前提の上で行動選択を行った方が、このゲームは確実に面白いゲーム内容を持つはずなのです。私が得点ボードを導入して得点状況を全員の前に明示するというのは元版のボツワナでは示されていない意図、プレイヤーに「自分の手を決める時に得点状況は全員把握したうえでお願いします」というプレイング上の注文を付けていると言えなくもない。それによってこのボツワナというゲームの難しさ、奥深さに初めて気付くという人も居るのではないかと思いますが、反面「何かわからないけど毎回上手くやられてしまう、意味がわからん」となってた人が「そういうことか~」と気付くきっかけを作っているとも言え、その点ではゲームの難度を下げているとも言えるのではないかなと、そう思っています。ドイツボードゲームはやはり、内容が絞られている分こういう所の出し入れが大切になりますし、そういう絞られたゲームの面白さに脱線せずに到達してくれるプレイヤー、グループが増えたらいいなあ…とそう願っています。わかんないですが、今回のボツワナのご好評にわずかでもそういった変更が寄与していたら嬉しいところです。

さて、ボードの話もまだもうちょっと続けますが、長いのでまたしても切りましょう。…年内に書き終えたい(笑)。22年版ボツワナの話をしていて24年になっちゃうのはいい加減よくないな~。今年は26日くらいまで仕事しようと思っていますので、ちょっと頑張りましょう。

ボツワナ22年版振り返りをきっかけに、ゲーム制作の要点のお話。その7。

前々回あたりに「そろそろ書き終え…」なんて言ってましたが、前回の自分の文章を改めて読み返すとまだまだ終われる気配が無いですねぇ。「前回版を真面目に見つめ直してモチーフの再解釈と適度な明瞭化」が必要と認識し、gooさんにイラストを発注する際にそのある程度の輪郭を明示しなければいけないと取り組んだ…という話の続きからでした。

「このゲーム、結局のところプレイヤー達って何やってるんでしょうね?」というのが私からの切り出しでした。「制作の根幹に関わる課題がそこにあるんです」ということを把握していただくためでした。元版には本当に色んな説明が無いのです。ボツワナという場所と5種類の動物、これが真ん中にあるのは間違いない。動物5種が描かれ0~5の値が記されたカード1枚ずつと、動物の駒が各5体。何かわからんけど自分の番が来たら配られた手札から1枚を出し、何かわからんけど中央から動物駒を1個選んでもらう。ぐるぐる手番が進んでいき、いずれかの動物のカード6枚目が来たら何か今回のゲームが終わる。動物駒は1個0~5点となる。動物駒1個あたりの点数は出された最新のカードの値へと変動する。何故か変動する。ゲームに勝つための狙いとしては、ラウンドが終わった瞬間、自分が人より多く集めていた種類の動物駒の点数が高く、(そして他の人が集めていて自分が持っていない動物駒の点数が低く)なっていると良い。そこには悩ましい駆け引きがあり、遊ぶ人たちのアプローチ次第で面白さは飛躍しうる。そういうことに面白さを見いだせる人にとってはそれが面白いゲームになる。それは大丈夫。ただこれは何をしているんだろう?

この「動物駒を取る」という行為は?gooさんと私、お互いが想定していない所から消していく、外堀から埋めるという意図で言ったのは「これ、動物駒を獲得して点数を取っていくというゲームですけど、ハンターとして狩りをしている獲物とかいうようなことでは無いわけですよね?」という話からでした。省略しましたが、プレイヤーはおそらく人間。ボツワナを訪れた人間なのだろうとは想定していました。「サファリツアーみたいなことですよね」と、gooさんも同意されたのだったと記憶しています。ボツワナのサファリツアーに訪れた旅行者がライオンやゾウを見物するために出かける。誰がそれらの動物達の魅力的な姿を見ることができるのか?あるいは撮影できるか?という感じですかね…と、色々な枝葉の話を交えつつ、gooさんとディスカッションしました。これは「どういうゲームなのか」という話と「どういうゲームと捉えようか」という話が混ざっていて、つまりそれは「どういうゲームと捉えたら違和感無くかつ魅力的なゲームのアートを描いていただけるでしょうか?」という相談でした。gooさんの中でしっくり来て描けるゲーム内容が、こちらにとっても望ましくなるように探っていったということです。

プレイヤーの目的は観光なのか、それとも研究?みたいな話も出ましたが、そこは明示することは避けつつも、まあ研究というほど堅苦しいことは無さそうですよねと。研究です、と言い切ればプレイヤーが取っている点数というのはつまり学問的な成果ですといったような説明にも持っていけはするわけですが、そちらにはっきり振ってしまうとこれから作ろうとしてる可愛げのあるどうぶつゲーム、というイメージとちょっと合ってこないなと感じました。どちらかと言えば観光ということであれば、言葉にしてしまうとあれですが点数はいわば「良いサファリツアーの思い出ができた」みたいな満足ポイントみたいなものとして配置するのが良いのかなと。そこから前回版からの変更点として今回、「カードの0~5の絵柄を変える」という案が採用されました。大きな数字のカード程動物を間近に捉えている絵柄になっています。小さい数字ほどヒキの絵になり、1は遠景のシルエット、0は足跡というのも、gooさんとの話し合いの中で決めていったものです。パッケージの構図に関しては、最終的に採用された走っていく車の姿はプレイヤーのゲームプレイ、乱舞している動物の写真は何らかの慌ただしさを伴った撮影旅行を思わせる…というような。そして出てくる動物5種を前景に持ってくると。背景に各動物の群れを何となく持ってこようというのも、各動物が複数体登場してくるゲーム内容と合致させたりゲームを展開した時のプレイ風景とリンクさせたり、という意図です。結果としては構図が一個前の弊社版キャントストップとちょっと似てしまった所もあるのですが、紆余曲折の後にgooさんからいただいたパッケージ画を一目見た時に「これは上手く行きそうかも!」と一安心したおぼえがあります。何で観光でプレイヤー同士が点数競わにゃいかんのだ、とか考え出したらキリは無いのですが(笑)。

・動物コマの種類、色、形、並び順
gooさんとの基本コンセプトの確認については、考えどころこそあったものの大きな障害も無く終えられたのですが、さてそれではすぐにでも決めねばということがありました。それが「今回採用する動物5種類」でした。採用する動物を決めなければパッケージやカードの絵に着手していただけないですから当然のことです。「あ、前回から変わってた?」というご認識の方も多いかと思いますが、今回のボツワナで採用された動物は「らいおん・ぞう・きりん・わに・すいぎゅう」。元版は「ぞう・さい・らいおん・ひょう・しまうま」でした。ひょう・しまうまout、わに・すいぎゅうin。と言ってしまえば「なるほどね」と気づく方も多いかと思います。今回は木製駒を採用することが決まっていたので、ヒョウやシマウマのような「体の模様」が特徴的な動物は基本外そう、と考えたのです。この選択の過程では「駒に模様を印刷するという可能性は?」という話題は上がりました。そういう製法自体はあるし、コンポーネントの魅力を増すという点では有効かもしれない。ただ今回についてそちらは早々に無しとして、動物の種類の検討で何とかしようということになりました。理由は何といってもコスト増と、製造不良のリスクが増大することでした。元々動物型の木駒というのは、複雑な形状をしている分シンプルなキューブやディスクに比べれば不良品が出る確率は高いです。形状がそれっぽくなるように…と凝ればそれはなおさらのことです。元々「不良品割と出るんじゃないか…」という懸念がある所に、柄を入れることによってさらにその率を高める手を加えるのは、「上手く行ったらこういう風にステキになる」という前段でもう避けた方が良い、というのが自分の判断でした。それによってゲームの魅力が飛躍的に高まる!と思うような事なら難しかったり予算がかさんだりリスキーだったりしても踏み込む余地はあるのですが、動物の変更で十分対応できるのでは…と思いましたし、今回は特にギリギリのコストで低価格商品を作っているわけで「安価な割に魅力的」という設計方針とは合わないということでした。

新たな動物選びについてgooさんにも意見を求めつつ進めましたが、自分としてのポイントは「ライオン・ゾウは絶対入れる」「ボツワナに実際は居ないと突っ込まれそうな動物は避ける」という二点からでした。ライオンとゾウを入れるというのは、それはもちろん人気からですね。加えて「シルエットから特徴的で見分けやすい」という点でも合格。同じ理由からすぐに決めたのが「キリン」でした。ライオン、ゾウ、キリン。あと2種類。4種めの「ワニ」も、選択にそう時間はかかりませんでした。形も特徴的で、生息地から絵柄も変えやすい。緑という色を使えるのも良い。…という所で「リアルなワニは緑じゃないのでは…」というのは当然出てくる話で、本来は黒やグレー、緑っぽいと言ってもせいぜいカーキ色だろ…という所ですが、伝統的にキャラクター的なワニの描かれ方ではワニは緑ですので、このボツワナのリアリティレベルも「ワニ=緑」はOKとしてください、という話もここで出ました。

問題は5番目。形状、色が他の4種と異なる物を…という中で、gooさんから出てきたのは「セーブルアンテロープ」。セーブル(黒)のアンテロープ…ということで、ボツワナに生息している動物としては非常にメジャーなのは確かながら、ライオン、ゾウ、キリン、ワニと並べると一体だけ劇画タッチとでも言いたくなるような違和感があり、ちょっと考えましょうということになりました。完全対応では無いものの「羚羊(れいよう)」という呼称は一応ある…でも「れいよう」でもまあ浮きそう。二人でああでもないこうでもないと紆余曲折考えあぐねた後、こちらから提案した「水牛」に同意をいただき、この5種が採用となりました。動物の絵柄については、どういうタッチで描いていただくか等繰り返しご検討をいただきました。ひとつ外せないチェックポイントとしてあったのは、イラストと木製駒の違和感の無い対応でした。gooさんにはイラスト執筆とあわせて木製駒の形をご提案いただき、木製駒については西山とも話し合い3Dプリンターで形状や大きさ、厚さを様々作って比較検討し、強度を確認し、そしてデザインをシンプルにする修正提案をgooさんに返し…という過程を経たものです。大きさ・厚さについては遊んでいる際の満足感や適切さを考えながら箱への収まりとアイテムとしての魅力も見る、バランスを見た形です。ごくシンプルにしてしまえば壊れにくくはなるし、小さく薄くしてしまえば箱に入れるのは容易ですが、できる範囲ではディティールを加えた方が駒を魅力的にはしやすいですし、大きく厚さもしっかりある方が遊んでいる最中の満足感も高くなるはずで、そこについては小箱2700円の中に入っているものの割にはかなり集中力を持って磨いたものになっています。特におぼえているのは、キリンの首の傾きですね。製品版に比べ、当初gooさんから出てきたデザインはかなり首が前に傾いた物になっていたのですが、これを立体化してみると、かなりぱたりぱたりと前に倒れやすかった。…Fred版のフィギュア倒れる問題の再来となりかけたわけです(笑)。そこで絶対倒れない角度に首を縦にしてしまうこと自体は難しくなかったわけですが、それでは味気ないというか、gooさんが首を前に倒した方が良いと考えて出していただいたデザインの意図を汲んでいないことになるわけで、私たちがやったのは首の角度を細かく変えたサンプルを作って「どの程度の角度なら倒れることなくキリンの首を前傾できるのか」という検討でした。結果各側面から良い形に着地したのではないかな…と思っています(いささか強度に不安点を残しましたが…)。

今回の最後に「動物の並び順」について。Fred版の際には動物がどの順に並んでいるのかはよくわからず、パッケージ裏の写真の並び順、ルールの表記順、全部バラバラで、Fredが特に気にしていなかったことが読み取れました。適当に並んでいても大きな問題が生じるような部分では無いかもしれませんが、自分達としての決まりを持ち込んでおいた方が座りが良いと言えば良い。ということで、この並び順は私が「これでお願いします」と指定した物です。最初に思ったのは「スタンダードにあいうえお順では?」と。並べてみると、きりん・すいぎゅう・ぞう・らいおん・わに。…どうもしっくり来ない。自分のしっくりこなさの理由を考えると、やはりそれは「主役っぽい動物が前の方が良いよな」というもので。ぞう、らいおん、きりんが前。わに、すいぎゅう(特に)は後ろじゃないか?と。結果渡した決めた並びが「らいおん、ぞう、きりん、わに、すいぎゅう」。これは何の並びなのかというと明確な答えがあって、「ドイツボードゲームの『赤青黄緑黒』という並び順です。まあこのらいおんどちらかというと橙ですけども、赤担当ということで良いだろうと。gooさんにも意図として「5種の動物が無理のない範囲で『赤青黄緑黒』っていう色を担当しているという把握でお願いします」と伝え、カードの色についてもそれを強調してもらいました。かつては「なつのたからもの」でもママダさんにお願いした話ですが「カードの色、動物の色、背景の色調を統一してください」という。水牛が夜景の中に、ライオンは夕焼け、ワニの居場所は緑がかっている。キリンの風景を黄色い風景に見事にしていただけたのを確認し、gooさんの確かな画力に感謝申し上げたものでした。

という所で切りましょう。ここまで書かなくてもというディティールの話までせっかく踏み込んだので、次回は得点ボードの話を。たかが得点ボードと見えて、自分の中では今回これを採用したのは非常に重要な前回版からの変更でした。ともあれまた次回です。

ボツワナ22年版振り返りをきっかけに、ゲーム制作の要点のお話。その6。

前回何とかボツワナの話を再開し、この勢いで書ききりたいなあ…と思ってたらまた一か月経過した(汗)。書いてることに気付いてる方とかいるかな?と思いきや意外と「楽しみにしてます」なんて有難いお声掛けもいただいていたので、流石に尻切れトンボにはできないなと。ということで(本来これが本題の)今回のボツワナの仕様とか作った際に力を入れたりこだわったり苦労したりしたポイントのお話です。

・箱サイズと価格、カートン入数
・前回版を真面目に見つめ直してモチーフの再解釈と適度な明瞭化
 ・動物コマの種類、色、形、並び順
 ・ボードの新規導入、形状、製法、表示
 ・ラウンドを「ツアー」と呼ぶことにした(gooさんからのアイデア)
 ・プレイヤーの駒を自動車型にするかの検討と見合わせ、パッケージやボードマスでの表現
 ・箱裏文のまとまり

と、チェックポイントはこんな感じですかね。

・箱サイズと価格、カートン入数
NGOとしての確認を含んだ話になりますが、まず「箱は特に他の理由が無ければできる限り小さく」これは私たちがボードゲーム製品を作る時の大原則です。大きい箱を所有するという満足感や、箱が大きいと何か重厚で壮大な本格作品なような気がするという(悪く言ってしまうとこけおどし的な)心理的なアピールを抜きにして実用で考えた時、小さい箱に必要十分なゲーム用具が入っているというのは沢山メリットがあります。まず何といっても輸送費用。そして私たちの倉庫のスペースも、購入された方の自宅での保管スペースも、全部カットされます。どこかに持って行って遊ぶような場合の持ち運びも便利。

元のボツワナはFred社の「ロール・スルー・ジ・エイジズ」の箱サイズを踏襲していて(当時RTTAも売価3600円とリーズナブルでした)、既存の大箱ボードゲームの4分の1程度のサイズで中にはしっかり良いゲームが入ってるというコンセプトは私たちには非常に「わかる」ものでした。そのサイズが良いならできるだけこちらでも合わせていこうと、「古代ローマの新しいゲーム」「フォルム・ロマヌム」「モダンアート」など、できるだけ合わせて日本語版をリリースしていきましたね。

で、今回のボツワナなんですが、先にある想定として動物フィギュアをやめて良い感じの木製コマで…というのを決めていたので、「さらに小さい箱でも入れられるよな」ということと、「できれば元の3500円より下げるのが良いだろうな」というのがありました。昨今のボードゲーム価格の(円安や製造コスト増要因からの)価格上昇を考えると「元サイズ・木製コマ・価格3500円」も全然常識的な範囲なんですが、NGOでやってきた出版姿勢に照らすと小型化と価格下げを実現したい所でした。私の個人的なこだわりなのか、NGOに期待されてる大切な部分なのか…というのは判然とはしないのですけどね。でも自分達にとっても購入される方にとっても、製品としての輪郭をくっきりさせる意味はあると思っています。

と、実際には一旦「箱小型化・木製コマ・価格下げ」の方向で検討を始めても、実際に製品仕様を固めようとしていくと「小型化はできるけど価格下げられんなコレ…」とか、「意外と小型化が上手く行かない…」とか、割とすぐ袋小路に入って当初の構想通りできていかないものなのですけどね。私たちの場合数多くボードゲーム製品を作ってきた(成功も失敗もたくさん積み重ねている)ので、過去に作ってきた製品のパーツやその際のコストや安定性や…という所を手掛かりにして新しい物を作っていきます。「できるかわからない、どうなるかわからない、出来も費用も皆目見当付かない」といったようなパーツや趣向も、その時作っているゲームの魅力を広げる上で絶対に不可欠だということであれば導入に挑戦しますが、大概それは本当に難しいです。ぼやんとした、雑に想像したリターンの為にはリスクは取らないよと。

ということで元のボツワナより箱の小型化を目指した時、私達の手近なターゲットとなったのが「探偵稼業」でした。探偵稼業と同寸法ですと箱やカートンの体積が既にわかっているので、明らかにできる数字の前提が増えるのです。ちなみに探偵稼業の寸法がどこから来たかというとその前に出した「ビザンツ」です。ビザンツについてはもとは(確か2008年頃でした)アミーゴ社から出ていてニムト同様の大定番カードゲームサイズでしたが、再版したラウタペリ社(フィンランドの会社)と日本語版出版で合意した際にあちらがサイズを決めていて、それが探偵稼業と同サイズ。ビザンツは印刷もあちら担当という意向でこちらもそこは飲んだ所だったので、ビザンツの輸入と共にNGOの箱サイズは1個増えました。その後再版したバントゥとかはこの底面をもとに薄くしたもの。今回のボツワナを出すにあたっては「より縦長な交易王サイズというのもあるにはある」と一応一旦は検討したのですが、割とすぐに「いや探偵稼業か元のままのサイズかの二択だな」となりました。これは内容物のサンプルを作って入れ込み、どちらがより都合良さそうか確かめてみた結果です(駒は3Dプリンターでサンプル製造します)。あとパッケージを想像した時の、実現できそうな販売価格とパッケージの印象のつり合い。これに伴い、カートン入数は今回24個に決めました(探偵稼業は36個)。という話は一般のプレイヤーの皆様には直接関係無い部分かとは思いますが、商品の浮沈には無視できない部分です。商品の価格と箱サイズとカートン入数とカートンサイズというのは直接関係しています。カートンサイズは一つにはカートン1個1個の取り回し、輸送や保存の利便で決めることになるのですが、同時に販売の際の単位でもあります。ある程度以上の規模を持った業者さんはゲームをカートン単位で仕入れているので、カートンに入っている個数とカートン1つあたりの価格というのがちょうどいい所になっているかというのも同時に気にしているのです。箱サイズを小さくすれば取り回せるサイズのカートンに入る部数は増えるのですが、さてそこで増やせるだけ増やすのが正解なのか?それともカートンあたりの価格をある程度同じあたりに合わせるのが正解なのか。NGOでは箱の重量体積の適正を目指しつつも、カートン辺り価格をある程度決まったレンジに収まることを最優先に考えているのが現在の方針。ボツワナの販売価格は税抜2700円、24個入で税抜64800円…という感じです。

・前回版を真面目に見つめ直してモチーフの再解釈と適度な明瞭化
今回ボツワナを改めてリリースするにあたり、私が避けて通れないと考えたのはここでした。…ホントに避けて通れないのか?と問われると、ちょっとボンヤリすれば避けられないことも無い気がするのですが、いやここはちゃんとせんとなと。ボツワナは2013年頃にFred社が出したフリンケピンケの新たなバージョンで、おそらくはファミリー層をターゲットにしていたものだった。動物のプラスチックフィギュアを安価に得たことに着想を得たのではないか…という推測が立つ。実際にその動物フィギュアは魅力的である程度以上の好評を博した。NGOの当時の日本語版出版はその忠実なローカライズでほぼ動かす幅は無かった、と。

元を正せば、今回は違うわけですよ。Knizia GamesとNGOが新たな契約を結んでいますから、私が希望すればボツワナでは無いフリンケピンケの新版を出すことは可能だったのです。トールにもロコにも、他の新しいモチーフの何かにもできた。でも今回もボツワナにしよう、と私が判断したわけです。現在のボツワナ英語版がアートワークそのままに「ワイルドライフサファリ」と改題しているのにです(あちらは何で変えたんだろう)。

何で今回も「ボツワナ」にすることにしたか?それは10年前とは言えNGOがボツワナのローカライズをしたことで、少なからず国内でこれを流通させ続け、ある程度以上のご好評をいただけ、終売した現在も遊び続けていただいている。自分達の過去のアクションを経て、このゲームは日本で「ボツワナ」になった側面があると思うからです。元はフリンケピンケだったよとか、こういうカジュアルなゲームを遊ぶ現場ではあまり重要ではないでしょう。もう一旦ボツワナで落ち着いた物を明確に強い理由なく何となく動かすのは、あまり望ましくないなと。絶対変えた方が良いはずだという代案を私自身持ってなかったのもあります。だからもう一回ボツワナで行こう、今度は自分達が仕様を全体的にコントロールできるボツワナでと。

と、そうなりますと課題として浮上してくるのが…「このゲーム、そもそもなんなん?」という問いです。これはKniziaさんがゲームをルールから着想していて、テーマについては出版社に任せるケースが多いからで、面白いゲームのルールなのだけど、これをどんなゲームの競争に見立てようか?というのが後付けされていることが多いのですね。この点で言うと元のフリンケピンケのアブストラクト、でもこれは株かな…という抑え目な実装というのは適切ではあった。でも商業的には地味過ぎた。だからFredがボツワナにした。わかる。それで広く、特に低年齢の方にも遊ばれるチャンスがあるようになっている。だから今回もボツワナで行く方が良いと思いました。で、Fred版の正直動物フィギュア頼りでゲーム自体はぼやんとしてると言わざるを得ない実装に、いくらかは改良を加えたい。NGOオリジナル版として出すからには。ということでした。完璧には無理だとは思っている。でも「なんかそんな感じもするね」という自然さ、納得感、情感を強化したいと。整合性ではないのだけど、辻褄が合ってるように見えなくもないゲームの姿。これはまあ、ドイツゲームの平均的な態度ではあるのでしょう。再現と駆け引きやり取りの面白さなら後者優先。前者をどの程度おざなりにするかは人による、全然うっちゃってもアブストラクトにしても後者が素晴らしければ賞賛される、でも前者の質も高めればそれはそれで賞賛される。そういうジャンルなので。

ということで、ボツワナというゲームを見直して改めて出す主体となろうとした時「これは多分こんな感じのゲームなのだと思っています」という立場を可能な限りははっきりする(明示しなくても良いけど姿勢としては持っている)方が良いと。この課題に本格的に取り組んだのは、イラストレーターのgooさんに依頼をお受けいただき、立川にご足労いただいて具体的なオーダーを出すにあたってでした。

…長いですね。全然まだ終わらなかった。結局また次回に続きます。

ボツワナ22年版振り返りをきっかけに、ゲーム制作の要点のお話。その5。

さて、やっと実際に出たボツワナのお話…余りにもお待たせしました。と言いつつ、書くことを構想してたらまだ具体的な製品の話に行かないかもですが(笑)。
2022年版ボツワナ…とか言いつつもう2023年も10月半ば!海外の新旧パブリッシャーの動向を見聞きしていると…(というほど一生懸命チェックしているわけでは全然無いですが)、リリースペースを中心にびっくりする程の活動量を見せている所もあれば、「終わった?」と思いきや実は動いている、みたいな所もあり(ボードゲーム新規出版に関してはウチもですね)、ホント生き方様々になってまいりましたねえ。私どもも、今の姿勢を踏襲して引き続きパブリッシャーで生きていければ良いんですけども、さてどうなりますか(笑)!いつの世もボードゲーム出版仕事にするなんてムズいですが、コロナ来てからは輪をかけて激ムズですね。

ニューゲームズオーダー創業から数えても実に15年ボードゲーム出版やってますと、自分達の中で一旦「これはこういう風にする」「こういうことはしたくない、しない」「懸念もあるがこれはチャレンジしよう」…と、ボードゲーム製品作りについて答えを出した部分が色々とあります。もちろん時の流れや周辺環境の変化に伴って「いや、これは対応しなきゃだよね」と変わっていくこともあるんですが、やっぱり動かしたくない所は明確。…そしてその明確な部分と商売繁盛とは割と合致しないもんです、世の常ですが(笑)。

自分達が仕事を始めた2010年代とこの2020年代の違いと言えば、2010年代はボードゲームを自前製造して在庫抱えて日本で売るなんて、いかに界隈では名高い傑作名作のローカライズに成功したとしても行っちゃえば酔狂の類の所業と見なされてたと思います。もちろん「そりゃそんな事を成功させる会社が現れたら良いよね」ということでボードゲーマーの皆様には平均すれば「ちょっと無理じゃないかとは思うけどまあ頑張れ」くらいでご反応いただいてたかと思います。弊社以前にもちろんメビウスゲームズさんがサンファンですとかQ-JETですとか日本語版を実験的にリリースされていた部分はありますが、NGOを始める際にご挨拶がてらアドバイスをいただきに伺った際、メビウスさんの自社出版の状況を聞いたところ「やっぱり色々簡単じゃないですよ」というお話をしていただいたおぼえがあります。当時ドイツボードゲームを仕事で、となると基本海外パブリッシャーや問屋から各タイトル50~200個くらいを仕入れて自前の和訳付けて販売/専門店に卸す、が最大限で、出版はその脇で実験段階、というレイアウトでした。

と、今回の話は関連するけど直接この話題では無いのでその後の展開を言うと、2010年代前半~半ばにかけてじたばた日本語版を1000部ずつとか出していっていた所に2015年辺りで潮目が変わり(うちで言えば枯山水が売れ)、あ、これは行ける!と、今振り返れば数年間の理想的な時代がやってきて、いよいよ順風満帆、良いじゃないか!となった所に2020年にコロナがやってきて色々頓挫したという。ウチもなったし割合皆さんなったと思います。コロナ来たての2020年こそおうち需要みたいのに束の間の生きる道を感じた売り場方面からの特需が起こり意外と売り上げは保ったのですが、その後はうん無理だ!と。コロナだけでなく、ここに来て(おそらくボードゲームの知名度拡大からの新規参入拡大、という流れが続いたことや、ボードゲームカフェなど「買って自分の物にしなくてもボードゲームを遊べる、シェアする選択肢がある」ようになったことから)ボードゲーム出版も自分でやりたいという様々な業者さんが増えたことも一社一社の出版事業が難しくなる元だったろうと思います。

2010年代の、ほとんど担当者が居なくてやりますと手を挙げただけで歓迎して貰えた時代から、2020年代のボードゲーム出版を仕事にしたい人が沢山居て、「別に自分が敢えてやらなくても売り場に多種多様なボードゲームがあふれる」時代への変動があったと。現在に至ってもなお「いやそれでもNGOにこそボードゲームを出してほしい」と、私たちのチョイスとかクオリティ、考え方に価値を置いていただいている方からのお声掛けがあるのはたいへん嬉しく思っています。その気持ちにできる限りお応えしたい気持ちはある。しかし大状況は、乗車率パンパンの満員電車に乗り込むアクションになってるような…という思いもぬぐえない。エリアマジョリティわかる人なら常識だと思いますがそれって基本線はやらない方が良い動きなんですよね。駒1個あたりから獲得が期待できる勝利ポイントが明らか目減りますので。ボードゲーマーの端くれなので、その皆が見つめてるマス目にズンドコ持ち駒投入するのに気が進まないです(笑)。あとその物量戦で勝てるような駒を持ち合わせてないのも勿論です。

そこで今回のボツワナ(ようやく帰ってきた)ですとか、最近出しているNGOが出版しているゲーム(もそうだし、ゲーム書籍も、物撮りノートも)。それは「この色々あふれ返った2023年でも、まだまだ絶対出した方が良いよね?」と思える物を出すという事です。どれだけ点が取れるのかというのはありつつも、比較して空きマス、すいてるマスだと。とりわけボードゲームに関しては、私たちが意識している従来のドイツボードゲームの愛好者層の外に向かって、ドイツボードゲームの面白さが巻き起こる可能性にプラスをもたらせてると思える物に優先順位を持っていこうとしています。ご存知いただいている方も(もしかしたら期待していただいてる方も)いらっしゃるかと思いますが、「愛好者向け」「長時間」「大箱」のボードゲーム出版でも過去には何度か頑張らせていただきましたが、少なくとも私たちが丸ごと抱えて出版という形式では、今はやることはないかな~と。商業的にもリスキーだし、多くの目ぼしいゲームについては誰が出すかの競争も巻き起こってるでしょうし。言葉にしてしまえばこれはドイツのファミリーゲーム出版の基本の基本なのかなと思いますが、少なくとも2010年代後半から2020年代にかけてこのファミリーゲーム、ファミリーストラテジーゲームの出版が「商業的に美味しくない」という一旦の結論(とヘビー・ライトへの出版二極化)を見ました(一旦の、としておきたい)。この我々のホームである所の真ん中あたり。儲からない真ん中あたり。私たちは真ん中あたりだと信じている、端っこかもしれない領域。ボードゲーム出版、ここで仕事にしたいですなあ。この領域は廃墟になったけど他で仕事になった…という未来、生き延びれるかもしれないけどそんな満足できないんですよね(笑)。

と、具体的なボツワナの話には行きませんでしたが(そして繰り言かもしれないですが)書くべきことは書けた気がするので、次回もう一回、今度こそボツワナのディティールの話を書いて締めることにしましょう。ファミリーゲームってこんな感じかな、と思いながら作ってるということで、一応その補足説明です。